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書筆-概説

2009.06.30

日本の筆の歴史と巻筆 (村田隆志)

 

巻筆と水筆

 

日本の筆には、製法の点からいうと、「巻筆(まきふで)」と「水筆(すいひつ)」がある。「水筆は現在通用している筆」であり、「巻筆はかつて広く使われた筆」である。

天平宝物筆の復元想像図藤巻大筆(部分)
巻筆の実例

 

・正倉院所蔵の筆(奈良時代)
※右図は天平宝物筆の復元想像図
・久能山東照宮所蔵徳川家康関係資料所収筆(江戸時代)
・木村陽山コレクション籐巻大筆(江戸時代)
※左写真
・明治時代の巻筆
・第十五世藤野雲平製作巻筆(現代)

 

巻筆の特徴

 

巻筆の構造は、穂先の部分・鋒(ほう)の根元に紙を巻いて芯を作り、これに上毛(うわけ)を重ねる。鋒の根元に紙を巻く点で水筆と大きく異なり、水筆の製法に比べてより古い製法である。
根元に紙巻きの部位があることで、穂先の動く部分が短く安定しているが、太い線や抑揚のある線を引くことは難しい。

 

巻筆から水筆への移行

 

中国では唐時代末期に巻筆から水筆へ移行したと考えられているが、日本では明治20年代まで巻筆が作り続けられていた。
巻筆は、小字や仮名を書くには便利だが、大きな書を書くことには向かない。そこで、日本においても水筆を製作しようとする者もいた。江戸時代中期の儒学者・細井広沢(ほそいこうたく)は、中国製の水筆を解体して、その製法を解明し、水筆を作っている。しかし、日本で水筆を製造する動きは広がらず、中国製の水筆の輸入に依存していたようである。当時の史料によると、長崎に来航する唐船が1隻につき4万本の中国の筆「唐筆(とうひつ)」をもたらしたという。
明治時代になると、筆舗の主であった高木寿頴(たかぎじゅえい)は中国から筆匠、馮耕三(ふうこうさん)を招いて、水筆の技術導入を図っている。このような動向により、ようやく日本での筆づくりも、従来の巻筆から、水筆である現在の筆に変化していったのである。