書筆-前回との比較
書き味から仮名の筆に迫る
仮名の筆はどのようなものであったのか?仮名の隆盛期である平安時代に使われた筆は残っていない。文献資料による考察をもとに復元した筆を用いて、揮毫実演し、書き味から仮名の筆について考える。
前回との比較
前回のフォーラムでは鹿の毛で巻筆を製作し、揮毫実演を行った。ところが、その使用感は硬く、鹿の毛が本当に使われていたのか疑問が生じた。そこで、今回は改良を加えた筆を用意した。
鹿の毛には部位に応じて数種類の毛がある。前回用いたのは「小唐冬(ことふゆ)」と呼ばれる毛であったが、今回は江戸時代の筆の原料に関する本『製筆鹿毫全図』にも見える「白真(しらしん)」という毛で製作した。
「高野切第一種」をテキストとして、土橋靖子先生、石飛博光先生に揮毫実演していただく。
小唐冬を束ねただけの筆
●土橋靖子
筆先がまとまらず、非常に書きにくい。
「子どもさんの名前を書く筆、小筆ですね、信じられないぐらい安価な200円とか300円とかいう筆が世の中にはありますけれども、ちょっとあの感じですね」
●石飛博光
書きにくい。前回のフォーラムで感じたように、非常に書きにくい。
「こんなに下手になったのかなあと思った。あのとき、大変ショックでしたけど…」
白真を束ねただけの筆
●土橋靖子
筆が非常に滑らかである。よい感じで書ける。毛質は柔らかく、非常によい。ただし、跳ね返る感じはあまり強くない。
●石飛博光
すごく柔らかく、穂先の弾力が非常に利く。線の肌もきれいに書ける。
小唐冬と白真の性質 (仁井本誠研)
小唐冬と白真は、同じ鹿の毛でありながら、その性質はまったく異なる。
小唐冬は、やや硬く、毛の先が悪いため、小唐冬のみを原料とするとバサつく。通常は、強さを出すため、筆の根元に混ぜて使う原毛である。
白真は、とても柔らかく、根元の毛筋が太い。量を多くして製作すると、粘りがあり、毛先が自然にまとまる。また、毛の内部が空洞になっているため、墨含みがとてもよい。
しかし、柔らかいため、製作するのは困難である。煮て、固めて、堅くするが、それでも扱いが難しい。