物の形を象った、象形文字から発展した「篆書(てんしょ)」現在の漢字に繋がる、隷書以前に用いられた、中国古代の書体です。
これは、木の生い茂る様を描写した「森」という文字。そして、文字通り心臓を象った「心」という文字です。篆書は、事物の表情を活き活きと伝えます。
「勿論漢字は中国で生まれましたが、中国で漢字が生まれてから一番最初に書かれていた書体というのでしょうか、文字のスタイルですね。それを大雑把に言って「篆書(てんしょ)」と言っているわけですね」
「本来それは書道の文字として書かれたわけでもなくて、当時の色んな記録とか、実用の道具として文字が使われていたわけです。それを現代20世紀に生きるわれわれが、古代の書道の材料としてそれを扱うというのが、私達の立場なんです」
「所謂、今われわれが日ごろ使っている活字というのは、楷書なんですね。それよりももっともっと原始的で、文字が赤ん坊が生まれるように、文字が生まれ出てきたときの原始的な絵文字とか、こういう形だからこういう意味だと直結している字が多いんですね」
「私が知っている中国の友人も篆書の勉強をやっていて、発表なんかするんですが、すごく柔らかい筆を使って、尚且つ強い線を引く。実はこれが一番難しいんですね。そういう、言ってみれば二つの相反する、柔らかいもので剛いものを出す。羊毛を使って、血脈を通わせると言うんですかね。羊毛の柔らかい弾力のある筆を使って、古い時代の文字をもう一回暖かく蘇らせるんですね」
「初めて篆書を書くときは、構造が非常に複雑ですから、どこからどう書いていいんですかとなる。例えば家を建てる時のように、土台をしっかりまず造って、柱を立てて屋根を書いて瓦を葺くように、そういう心づもりで単純な気持で書けばいいと思う。全体を一度に書いてしまおうと思うと、これは無理なんですよ。だから、一つずつ組み併せることで、構造的な安定を造ったり、ひとつひとつ偏角を組み合わせることで、ある程度は形になりますよとよく言うんですけどね。書きやすいように書いたと思いますから。昔の人も。わざわざ書きにくいように書くということはないと思います。われわれも昔の人も同じ人間ですから、こういうふうに書いたほうが書きやすいというのが、書き順ではないかと思います」